究極のネグレクト~大阪市マンション幼児2遺体~

 最近の児童虐待の死亡事例はあまりにも悲惨で直視できない程の状況で親から虐待死された、あるいはネグレクト死されています。驚きと同時にいったい親たちはどうなっているのか、病理の考察も難しい事案が増えていると思います。7月31日、大阪市西区のマンションで室内から3歳の女児と1歳位の男児の2人が遺体で発見され、21歳の母親が逮捕されました。母親は18歳か19歳の時に女児を出産、母親になれた喜びをブログに綴っているということですが、それは一時の喜びだったのでしょう。父親と離婚後は2人の子どもを引き取って飲食店で働いきながら、大都会のなかの孤独な子育て、誰も頼る人のいないワンルームマンションの一室で、何もかも嫌になって子どもと離れたいと思ったのではないでしょうか。大阪では転居届も出さず、風俗店で働きながら、ホスト遊びにはまってしまい、子どもを置きざりにして出かけるような日々が半年近くあったということです。

 母親はなぜ誰にも助けを求めなかったのか、子どもは他所に預けていると嘘までついて隠していたのか。生育歴から見えるものはなかったのか。ブログでは少しは母性も垣間見えるけど、この事案は“究極のネグレクト”だと思います。育児放棄・放置しておけばわが子が死ぬのが分かっていたのに何もしなかったし、マンションに帰ってきたら子どもが死んでいるのにも関らず、それを確認して死体を放置したまま出ていったというのですがこの心理がよく分かりません。未必の故意?殺意があったのではという疑問です。

 大阪市の児童相談所は評判によると先駆的にがんばっているところだと聞いていました。しかし、今回の事案の対応は問題山積です。通告は3回位同じ住人から入っているにもかかわらず、「通告があったので調査に来ました」という置手紙を置いて帰っているそうです。一般的な泣き声通報と判断したのか、住人をなかなか特定できなかったので曖昧な対応になったのか、危機意識が欠けていました。

もし私が児童福祉司だったら、住民票もなく、特定が難しければ警察に協力をお願いしてマンションの管理会社や不動産屋に当たったり、マンションや隣近所に聞き込みをして夜うち朝がけで張り込みをしたり、隣のビルから部屋を見てみるとか、少々刑事さんや探偵のような行動もしなければいけない場合もあるのではと思います。こういう場合は個人情報保護よりも、虐待・ネグレクトの有無の確認、子どもの生命救助が優先します。

 私は過去にこんな経験があります。アパートの住人から苦情がきて、おかしな行動(ドアの前にミカンやお菓子をおいて部屋を回るとか、ボーとして髪が長いなど)をしている男の人がいるので、何とかしてほしいと相談を受けたことがありました。私は苦情を訴えてきた人と信頼関係を作り、さっそく訪問して周囲に聞き込みをしました。近くの店やアパートの住人、ガスの点検に来た人、それから兄らしき人が時々ドアノブに紙袋にさげて帰るという情報を得たので、兄の居所を突き止め、警察にも協力依頼をして、兄の合意を取って警察と一緒に強制的部屋に入りました。部屋の中はネグレクト状態でした。兄と妹は2人とも精神(統合失調症)の未治療というのが分かったので、警察と一緒に都立病院に搬送して入院加療をさせました。

この事例は児童虐待とはまったく関係ないのですが、苦情や通告を含む相談に対してどのように対応・介入するかです。警察の協力は必須です。警察と連携してハード・アプローチをしなければいけないときもあります。その判断をしていくのは、専門職である児童福祉司や保健師の役割でしょう。ネグレクトの親は自ら援助希求を出しません。周りが発見し、子どもを早期に保護する支援をしなければ命が危ないのです。

 この事例は、児童虐待の通告や介入方法に対して今後さまざまな課題を与えていると思います。最近は住民票を移さないで転居している乳幼児を持つ家族も増えているようです。妊娠時からのハイリスクの把握を徹底すること、必ず家庭訪問をして居場所の確認と携帯電話などの連絡方法や特に十代の母親は実家の連絡先も把握しておくと、行方をくらましたときに連絡ができると思います。それと住民票がない場合は、居住地の管轄自治体がしっかりフォローする体制をとることが重要です。また、乳幼児健診の未受診者はハイリスク疑いと考えてしっかり追跡する必要があります。

2010年7月