代理によるミュンヒハウゼン症候群(MSBP)
今年の日本子ども虐待防止学会(JASPCAN)は広島でした。前々日には岐阜県で子育て支援の分科会と名古屋市に勤務する保健師さんたちに「親支援グループ」の研修をしてきました。岐阜や名古屋に行った折にはいつも連絡し合う仲間がいます。名古屋の研修会の後にも保健師さんたちと一緒に夜のひとときを過ごしました。そして学会に参加してきました。学会から帰ってきて1週間後の22日、友人の一人が勤務する岐阜の児童相談所から電話がかかってきました。「ミュンヒハウゼン症候群かどうかわからないけど、大学病院から連絡があった。5人姉妹の5女が入院している。母親と面会を禁止したら病状が良くなって退院させるというがどうしたらいいか?真ん中の3人の子どもたちは小さいときに亡くなっているようだ」と。詳しいことはまだ分からないが、大学病院は警察にも通報しているらしいということです。虐待が疑われていることは明らかです。これは単なる虐待というよりも、“代理によるミュンヒハウゼン症候群”の可能性が高いなと思いました。
友人には、「ミュンヒハウゼンの疑いがあるから、亡くなった3人子どもの死亡経過や死因を把握すること。ミュンヒハウゼンは証拠を捕まえるのが難しいので、病室にビデオカメラを入れるか、隠しカメラを入れて母親の行動を撮影する必要がある。年末だし入院を延期するか、主治医には“ミュンヒハウゼン症候群の疑い”とか、“被虐待児症候群の疑い”とか診断書を書いてもらったらどうか。子どもは保護が必要。親権の一時停止も検討すべきなので弁護士や法医学者にもスーパーバイズを受けた方がいいですね。」と助言しました。
早速調べてくれて、3人の子どもの死亡経過や入院中の子どもの検査結果などが分かりました。カンジーダが検出されていたり、子どもの死因も敗血症だったりで、これは完全なミュンヒハウゼン症候群だなという判断をしました。そうしたら24日の朝テレビを見ていると、母親は警察に逮捕されたというニュースが流れました。母親は腐ったスポーツ飲料と水道水を混ぜて点滴に入れていたとのことです。子どもの具合が悪くなれば自分が看病できるからやったので、子どもを殺そうとしてやったのではないと殺意を否認しています。父親もインタビューに答えていましたが、母親は子どもが亡くなった後も一生懸命やっている、殺そうとしてやったのではないと同じように殺意は否認していました。自宅はりっぱな一戸建てです。連日ワイドショーで放送しています。
この事例は典型的な「代理によるミュンヒハウゼン症候群」です。私はこれまでも講演先で2〜3例聞いたり、石垣保健所の事例検討でそうではないかと指摘してきたことはあったのですが、こんなにもニュースで報道されるような事例を相談されたのは初めてです。驚いてばかりもいられませんが、3人の子どもの死を医学的にも明らかにすることや5女の今後をどうするか。児童相談所は警察の取り調べを待ちながら、対応を決めていかなければなりません。私は3人の子どもの死は、母親が手加減を誤ったために死なせたのではないかと考えています。亡くなった後妊娠して子どもを産んでまた病気にさせてしまうのを繰り返しています。明らかな虐待です。しかし義父も悪い母親とは思っていません。父親も子どもが虚弱だったり、小さかったりしたので病気になったと今回とは別だと言っています。家族にとって母親らしい“いい人”のようです。母親は逮捕された後、どうなるのか、どのような精神医学的な治療やケアを受けられるのか全くわかりません。MSBPの親の心理は、謎が多くて、奥が深くてよく分かりませんが、今後の児童相談所の対応を見守り、相談に乗りたいと思います。