
スポーツ界や芸能界、大学などで相変わらず大麻事件が続いています。なぜ同じ問題が起きるのでしょうか。私たちの身の回りにあるあらゆるものが依存対象になりますが、その対象に囚われて社会生活が破綻すれば、依存症と考えられます。つまり誰もが依存症になる可能性があるということです。
問題を認め、助けを求めることから回復は始まります。ひとたび依存症になってしまったら、どのような依存対象でも自分の意志や根性ではやめることができないのです。依存症の怖さはこのように自分の力でコントロールできないばかりか、どんどん進行してゆくことです。ある時期に「中休み」があったとしても、相談や治療をしなければ死への歩みを確実に進めることになります。本人にとって「救命救急士」だったものが、ある日突然「殺し屋」に変身するのです。こうしたことは、薬物依存症に限らず、他の依存症にも共通するものです。しかし、本人も家族もなかなかこうしたことを認めようとはしません。
自分のどこを変える必要があるのかが分からなければ、再び同じ問題を繰り返すことになるでしょう。
1.大麻とは何か
大麻とはクワ科の1年生植物で、英語ではハンプと言います。植物全体に、麦角で作られた麻薬であるLSD(lysergic acid diethylamide)と似た作用があり、使用を重ねると中毒を起こします。そのためわが国では「大麻取締法」を制定して、勝手に栽培することを禁じています。大麻は2~3メートルくらいに成長し、葉にはきわめて細い腺毛があり、「麻酔い」と言われる特有の青臭いにおいがあります。花期は夏で、花粉を出す雄株と、実をつける雌株の二種類があります。大麻の麻酔性成分は、植物の表面をおおう有柄腺毛内に分泌される樹脂に含まれていて、この成分のうち大麻の幻覚作用の本体だと言われているのが、テトラヒドロカンナビノールです。種子は一般に「麻の実」と呼ばれ、灰褐色の小卵形で斑紋があり、緑黄色の油分(約35%)を含んでいます。製油原料として使用されるほか、そのまま小鳥の餌や七味唐辛子などの香辛料にも使われています。
古くから世界各地で栽培された大麻は、もともとは繊維や種子をとるのが主な目的だったのですが、地域によってはその幻覚作用を宗教的な儀式や快楽のために秘かに用いていたといわれています。大麻は成長期には1日に30センチも育つと言われているために、赤ちゃんに麻の葉の模様の着物を着せて元気に育つように願うといった風習も日本にはあり、私たちの生活に深く結びついた最も身近な植物であったと言えるでしょう。
大麻は厳密に言えば麻薬ではありません。しかし幻覚作用があるために、20世紀に入ると世界中で麻薬と同じように乱用されるようになりました。吸煙者仲間では「ハッパ」と呼ばれています。
2. 乱用大麻の代表的なもの
[マリファナ]
大麻の花穂や葉を摘み取って乾燥させたもの。巻きタバコのように喫煙することから「ジョイント」とも呼ばれています。
[ブッダスティック]
東南アジア産のブッダスティックは、雄株の花穂のみを糸などで巻き込んで棒状にしたもので、竹串を芯にして周りに巻きつけたものもあります。長さは約8センチ、重さ約2グラムで、20本を一束として取引きされます。
[ガンジャ]
ガンジャは中央アジアおよびインドのカシミール地方で採取される開花期の大麻の雌株の花穂のことで、樹脂を花穂、結実部とともに固めてあり、平板状、円筒状、ボロボロのブロック状のものなどがあります。
[ハシシュ]
大麻樹脂を固めたもの。インドや中央アジアでは「チャラス」「ダワメスク」などと呼ばれ、北西アフリカやエジプトでは「チラ」「チラス」と呼ばれ、アラビアやイランでは樹脂、花穂を「ハシシュ」と呼んでいます。ハシシュは、削ってタバコに混ぜて吸煙するだけでなく、樹脂のみを水で溶いて飲む方法、アルコールに混ぜて飲み物にする方法、アヘンとともに飲用する方法などがあります。
3. 大麻の作用
大麻の作用は、その種類、使用方法、使用量、使用時の雰囲気、体調、経験などによってさまざまですが、一般的には内服よりも吸煙の方が2〜3倍強いと言われています。大麻タバコの吸煙は、煙を深く吸い込んで息を止め、暫くして、そっと息を吐くという独特な方法でおこなわれます。この時、慣れた者は煙をほとんど出しません。大麻の場合「回し飲み」が多いのは、このような吸煙方法のためです。煙を吸い込んだ者が、息を止めてゆっくり煙を落ち着かせている間に、タバコは仲間の間を巡り、息を吐いた頃にふたたび自分のところに戻ってきます。経験を重ねた者なら4〜5服で十分で、数分以内に効果が現れ、3〜4時間持続します。内服した場合は、作用が現れるのに30分から1時間かかる代わりに、約8時間ほど効果が持続すると言われています。大麻中毒の特徴は耐性がないために、慣れた者ほど少量で効果が得られることです。
4. グッドトリップ・バッドトリップ
大麻の効き目が現れトリップ(大麻による陶酔)が始まると、目が充血して赤くなり、瞼が重く腫れぼったく感じられるようになります。精神的には夢を見ているようなうっとりした感覚があり、肉体的・精神的な充足感をもたらします。他人に対して限りない親近感を抱き、性欲が亢進して欲情の抑制がなくなります。また、知覚が鋭くなり、わずかな音にも反応を示したり、空想力も強くなって錯覚や幻覚を起こします。心理的な刺激も強く感じるようになるために、情緒不安定になって苛立って激怒したり、逆に笑い出したりすることもあります。
グッドトリップの場合は、最初から楽しい気分で、自然に笑いが溢れ出し止らなくなります。気がつくとひとりで喋りまくっていたり、笑い転げていたりします。大麻タバコのことを「笑いたばこ」と呼んだりするのはこのためです。反対にバッドトリップになると激しく落ち込み、精神的なパニックを起こし、妄想や錯覚が生じ、思考が分裂して錯乱状態になります。不愉快なことがあったら大麻を吸って憂さ晴らしをしようなどと思っても、不安感や焦燥感があると、かえってそれが増幅される危険性が大きいのです。
また大麻中毒では、現在と過去、未来が入り混じる時間の観念の混乱や、見えるはずのないものが見えたり、数分間の出来事を数年間にも錯覚するといったことも、よく起こります。音楽・絵画などへの美的感覚が高まる一方で、およそくだらない絵が芸術的に見えたり、平凡な音楽が素晴らしいものに聞こえたり、時には自分が急に美女に変身していたり、鳥や動物に姿を変えているのに気づいたりもします。こうした精神的な異常体験は、判断力の低下や思考の混乱を招き、ついには深い無気力状態に引きづりこみます。数時間後にやっとわれに返っても、心身ともに疲労感が強く、車酔いに似た状態が暫く続き、体調を崩してしまいます。
5. 簡単に始められるが、簡単にはやめられない
ぼくの相談室にも大麻所持・使用で二度も逮捕されたのに、「大麻は化学物質ではなく植物なんだから体に悪くない」とか、「外国では違法にならない」と言って、問題を認めず相談が続かなかった人もいます。
ダメと言われるからやらない子もいるし、ダメと言われてもやる子もいるし、ダメと言われるから逆にやる子もいます。「やってはいけない」と言われているからやらないと言うのは、言われなければやるということにもなるし、自分で判断していることにはなりません。薬物に限らず「やってはいけない」と言われると、かえってやりたくなるという心理も人間にはあると思います。興味を持つことは抑えられないと思うのですが、ダメと言われなくてもやらない子は、どこが違うのでしょう?
薬物問題はその使用・所持が合法か違法かの問題ではなく、それが自己評価(自己肯定感情)を下げる力にはなっても、上げる力にはならないことです。そして「この問題から何を学んだら(変えたら)良いのか」というのが本人にも家族にも共通した設問です。その答えを見出した時、またひとつ幸せな家庭が誕生することになるでしょう。そのことを言い当てているこんな諺がアメリカにはあります。
『現代のアメリカで最も不幸な家庭は薬物依存症者のいる家庭です。現代のアメリカで最も幸せな家庭は回復の道を歩んでいる薬物依存症者のいる家庭です』
(2009.7 吉岡 隆)
* 以下の文献から転載・参考にさせていただきました。
(1)剣持加津夫『これが麻薬だ』立風書房 1984
(2)柘植久慶『麻薬汚染』立風書房 1990
(3)剣持加津夫『麻薬って何だ?』ポプラ社 1991
(3)『なぜ、わたしたちはダルクにいるのか』ダルク編集委員会 1991
(4)水澤都加佐『ドラッグ(薬物)ってなんだろう』岩崎書店 1992
(5)森田昭之助『麻薬・薬物依存』健友館 1994