AA(アルコホーリクス・アノニマス)では、アルコール依存症者が酒を飲まないで生きることを「ソーバー」と呼んでいる。ソーバーとは「素面で生きる」という意味の英語である。NA(ナルコティクス・アノニマス)では、薬物依存症者が薬を使わないで生きることを「クリーン」と呼び、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)では、金品の賭けをしないことを「アブスティナンス」と呼んでいるが、皆同じ意味である。
 回復するためにAAの12のステップを使っているこのようなグループでは、やめたいと思ったのに再び同じ行動をとってしまうことを「スリップ」と言っている。そして、それまでせっかく飲まない日を積み重ねて来たのに、飲んでしまうとまたゼロから数え直すのだ。今日だけ止まっている人も、20年間止まっている人も、「今日一日」のプログラムなのだから、本来同等なのだし、長さを競うものではないのだが、連続ソーバーを重視していると、時々勘違いが起きる。
 依存症の分野では、よく白黒思考(ゼロか百かという考え方)が問題にされる。しかし、せっかく1週間酒が止まったのに、飲んだからといって又ゼロからスタートするのも、オール・オア・ナッシングである。7日間止まっていたことはプラス評価せず、8日目に飲んだことだけをマイナス評価するからだ。
 他者の評価を考慮はしても、それに依存することは危険である。なぜなら、他者からの評価に依存してしまうと、褒められれば有頂天になり、貶されれば谷底に突き落とされたような感覚になってしまうからだ。つまりジェットコースターのような人生を送ることになる。そうならないためには、自己評価を確立する必要がある。過大評価されたと思えば、少し割り引いてとらえ、過小評価されたと思えば、「相手は私の長所に気づいていないんだ」と受け止めることで、激しい浮き沈みは回避できるだろう。もともと他人の評価は他人のものなのだから、どう評価しようがそれは相手の自由なのだ。
 そう考えれば、8日目に飲んだからといってゼロに戻す必要はない。再び飲まなくなった日数を、元の7日間に加えてゆけばいいのだ。長い視点に立てば、酒をやめたいと思った日(本人のグループでは、その日を「バースデイ」と呼んでいるが、家族のグループでも「新しい生き方」を始めた日がバースデイとなる)から、自分の命の火が消える日までに、どれくらい素面で生きる日を持てたかが大切なことだし、その質を高めてゆくことが更に大切なことなのだ。だからぼくは、「ソーバーが続かない」と言って自己嫌悪になっている人には、累積ソーバーという考え方を勧めている。
 アルコールや薬物、ギャンブル、セックスなど本人のグループでは、スリップが自他共に見えやすいが、家族のグループでは尻拭いや余計なお世話をしていても、自他共になかなかスリップしていることに気づきにくい。本人よりも家族の回復は難しいと言われるゆえんは、この辺りのこととも関係しているのだろう。

(2008.9 吉岡 隆)

第25話 連続ソーバー・累積ソーバー

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