2008年7月15日、ぼくはメリーランド州シルバースプリングにあるセイント・ルーク・インスティテュートを訪問する機会を得た。ここは心理学的な問題を抱えた聖職者(司祭・助祭・修道士・修道女・神学生)のための治療施設である。
 ぼくが滞在させていただいたのは、ホーリー・ネーム・カレッジという名前が付けられたフランシスコ会の修道院だったが、施設はそこから歩いてわずか10分ほどの距離にあった。郊外にあるのだろうというぼくの予想に反して、交通量も多い街中にその施設はあった。
 この入所施設は元神学校で、1Fには治療スペースやスタッフの部屋があり、8名定員のハーフウエイハウスも併設されていた。2Fは4つのウイング(病棟だとウォードだが)に分かれていて、そのうちの3つが男性用、1つが女性用になっている。
 現在の入所者は49名(男性31名・女性18名)で、男性の半分以上の病名が依存症だった。最も多い依存症は、インターネットのポルノ・サイトに依存している性依存症で、治療を受けるクライエントは年々増えているという。この施設の中にはコンピュータを自由に使える部屋もあったが、むろんインターネットは繋がっていない。
 合衆国では、刑務所から出てきた性犯罪者はセクシュアル・オフェンダー(性暴力加害者)と呼ばれ、地元の警察に登録されてしまう。もし、住所地を変えれば、又その地の警察に登録されるシステムになっている。
 セイント・ルーク・インスティテュートの治療は、クライエントのアセスメント(評価)から始まる。プログラムには個人療法をはじめとして、小集団療法、芸術療法、心理劇、バイオフィードバック、大集団療法、霊的指導、再発防止の心理教育などの他に、身体的な健康の保ち方を学んだり、依存症になっていった過程を歴史的に振り返ったり、子ども時代のトラウマや性的問題、不安の問題、怒りの扱い方、自己表現、共感、セルフエスティームなども含まれている。このように、クライエントが精神的にも、身体的にも、霊的にも、あらゆる面で回復してゆくためのプログラムは、月曜日から金曜日までびっしり組まれている。しかし土日は相互援助グループのミーティング以外のプログラムはないので、クライエントは息抜きに映画を見に行ったり、美術館に出かけたりしている。
 この施設の裏には、広いグランドやテニスコート(3面)やバスケットコートもあったが、今はテニスをする人がいないためかコートにひびが入ってしまい、そこから雑草が伸びている光景はちょっと寂しかった。
 心理的問題を抱えた聖職者のための治療施設は、ここの他にダウイン・タウン(ペンシルベニア州)やアルマ(ミシガン州)にもあり、カナダのトロント近くにはサウスダウンという施設もあって、相互交流しているという。
 「レジデンシャル・トリートメント」(入所治療)の期間は6ヶ月で、最初の90日間は毎晩(日曜日だけは午前中)12ステップグループのミーティングに出なければならない。廊下の掲示板には19種類の相互援助グループの名前が並んでいた。

・    AA=Alcoholics Anonymous
・    ACoA=Adult Children of Alcoholics
・    ACA=Adult Children Anonymous
・    Al-Anon=Relatives & Friends of Alcoholics
・    CDA=Chemical Dependent’s Anonymous
・    CoDA=Co-Dependents Anonymous
・    DA=Debtors Anonymous
・    EA=Emotions Anonymous
・    EAA=Eating Addicts Anonymous
・    GA=Gamblers Anonymous
・    NA=Narcotics Anonymous
・    NICA/NAA=Nicotine Anonymous
・    OA=Overeaters Anonymous
・    SA=Sexaholics Anonymous
・    SAA=Sex Addicts Anonymous
・    SCA=Sexual Compulsives Anonymous
・    SIA=Survivors of incest Anonymous
・    SLAA=Sex & Love Addicts Anonymous
・    WA=Workaholics Anonymous

 ここには異なる役割を持ったセラピストが15人おり、そのうちの2人はハーフウエイハウスの担当になっている。治療費は1日に400ドル(約41600円)かかるので、月に約1248000円かかることになる。しかし修道会や教会に治療費を払う力がなくても、受け入れてもらえるということだった。そのために施設長は月の80%は資金集めに奔走している。
 「レジデンシャル・トリートメント」を終えても、入所施設と社会の中間に位置する「ハーフウエイハウス」を数ヶ月から1年以上利用するクライエントもいる。しかし多くのクライエントは、「コンティニュイング・ケア」(継続ケア)の方を受けている。このケアは入所施設を出ても、最初の3年間は半年ごとに、次の2年間は1年ごとに、つまり合計8回にわたって施設に戻り、一週間の治療を5年間続けるというものである。
 ぼくは幸運にも、この施設で8年前に治療を受けたという60代の男性から話を聞くことができた。
 「私は入所施設に6ヶ月いた後、ハーフウエイハウスにも6ヶ月以上いました。最初の90日間は毎日12ステップグループのミーティングに出ました。私が一番感銘を受けたのは、治療者だけでなくここのスタッフ全員がケアリングの心を持っているということでした。ケアリングの心を持っている人たちが、私の「否認」の壁を取り除いてくれたのです。私はソーバーが9年になりましたが、今でも12ステップグループのミーティングには出ていますし、一日に3回はスポンシーから電話をもらっています。もちろん、その他にも回復するための道具はいくつも持っていますよ」
 運転をしながら、そんな話をしてくれている最中に、彼が耳にかけていたワイヤーレス電話に、仲間からの電話が入った。
「やあ、どうしてる?」
 彼の回復への実践を目の当たりにした瞬間だった。

(2008.7 吉岡 隆)

第24話 
セイント・ルーク・インスティテュート訪問記

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