第4話 対人援助と資格

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 アルコール依存症者のセルフヘルプのひとつにAA(Alcoholics Anonymous)というグループがある。それはビルWという一人のアルコール依存症者と、ドクター・ボブというもう一人のアルコール依存症者の出会いから始まった。1935年のことである。ビルの職業はウォール街の証券マンで、一時は金や名声が彼をとりかこんでいた。しかし、同時並行して彼はアルコールにもとりかこまれていることに気づいてはいなかった。
やがて彼はとうとう現実から目をそらせることができなくなってゆくのだが、そこで出会ったのがドクター・ボブだった。
 AAの12のステップを使っているセルフヘルプには、スポンサーシップという個別サポート・システムがある。回復プログラムを先に始めたメンバーが、プログラムに辿り着いた仲間の手助けをするのである。
 このようなグループのメンバーには、先輩も後輩もなく、むろん指導者もいない。新しくグループに参加したメンバーにとって、回復の進んでいるメンバーの笑顔や落ち着いた態度は、大きな希望になる。しかし、そのメンバーの参加は、回復の進んでいるメンバーにとっても、また大きな力になる。なぜなら、そのメンバーの姿こそかつての自分の姿であるわけだし、自分の抱えている本質的な問題が何であるかを、そのメンバーによって改めて認識させてもえるからである。
 つまりここでの人間関係は、互いに経験と力と希望を分かち合う「対等」で「平等」な人間関係なのである。
 アメリカでは、依存症から回復してきた人たちが、おおぜい依存症治療施設で援助職として活躍している。そして彼らは「リカバリング」と呼ばれている。
 日本でも、20年ほど前からアルコール依存症や薬物依存症のリハビリ施設が出来はじめ、リカバリング・カウンセラーたちの活躍する場が増えてきている。
 経験主義というのではなく、自分たちのひとつひとつの経験が酷ければ酷いほど、今苦しんでいる仲間の力になるという考え方は、実に逆説的である。しかしこれこそがセルフヘルプの財産であり、社会資源として価値を持つものなのだ。対人援助職が一番大切にしなければいけないことは、クライエントの利益である。自分の抱えている問題を解決するために誰を援助者として選ぶかは、クライエントにその権利がある。
 ところが最近のわが国では、とかく免許や資格の有無に偏重しているように思う。もともと、お上から認定されるということ自体が、クライエント不在の考え方だし、援助者はその権威に依存している。だから実際にリカバリングが入って、免許や資格を認定しているなどという話は、これまで聞いたことがない。
 薬物依存症のリハビリ施設を日本で初めて作った近藤恒夫さんは、薬物依存症のために事件を起こした仲間の裁判に、情状証人として立つことがある。すると、検事は彼にこう尋ねる。「どういう資格を持ってそういう仕事をしているのか?」と。彼は検事を正視して「あなたは、川で溺れている人がいても、自分には水難救助員の資格がないので、助けられませんと言って通り過ぎるんですか?」と逆に尋ねたという。対人援助職にとって資格が「死角」になってはいないだろうか。

2002.11(吉岡 隆)